臼井ミトン先生がご自身のラジオで「パワーポップ特集」ってのをやってたんですよ
ああ〜懐かしいなあ〜と思いながら聞いていたんですがやっぱり異常にキュンとする
この「なぜかキュンとする」という部分こそが「パワーポップ」の中心定義であると僕は思っています
っていうか「パワーポップ」と言われたら普通は誰が浮かぶんですかね
浮かぶも何もそもそもワード自体がそこまで認知されてんのかって話しでもありますよね
かく言う僕もそう呼ぶことは正直無かったりしますが「それ系」は確かに存在します
教科書的に言うと元々は「60年代にピートタウンゼントが言い出して70年代のチープトリックらが全盛期」
ということになっており、まあ言葉のルーツ的な話しでいうと確かにそうなんですが、それはあくまで原型の話しであって、僕的にはやはり90年代に花咲いて90年代に完結したジャンルだと思っています
というのもオビに「パワーポップ」というワードが乗り始めたり、CD屋にコーナーができたりなど、明確に「ジャンル」として一般的に認知されたのがこの時代だからです
もっと言うとアーティスト側が明らかに「これ系」を狙ってやってるという所も大きいかと思います
狙えるということはつまり定義が存在しているからでして、これにはこれの様式美があります
ミトンさんの番組を聞いてて思ったのは「全く知らない人」に対して説明することを考えると確かにこういった説明でしか伝えようがないと思うんですけど、日本屈指のパワーポッパーであるワタクシにしてみるとやっぱり「あ、そうじゃなくて...」と思う部分がどうしてもありました
番組内でも言っていたように、カテゴライズと言っても定義が定まっているわけでもありませんし、解釈は人や時代によって少しずつ変わるので「正解」とするのは難しいのですが、その時代にリアルタイムでドハマリしたパワーポップオタクとしてはどうしても補足しておきたくなりました
そもそもね、パワーポップって「パワー」の部分が重要なのではないのです
重要なのは「ポップ」の部分であって「どうポップか」がパワーポップの全てなんですね
極端な話しパワーポップなんてジャンルはジェリーフィッシュに始まりジェリーフィッシュで終わると言っても過言では無く、それ以降の物は全て「ポストジェリーフィッシュ」と言えるのかもしれません
実際僕らも当時「ああジェリーフィッシュっぽいねw」ってよく言いましたもん
つまりここが1つの指針になっていたことは確かだと思います
なのでこのラインの進化系統を書くとするならば、60年代のビートルズ〜70年代のクイーン〜80年代のXTC〜90年代のジェリーフィッシュというのが各時代の楔とし、このラインの血をうまく引き継ぐサウンドの総称を「パワーポップ」とするのが一番しっくりくるような気がしています
決してパワフルなギターが云々ではないのです
それは「ギターポップ」、なんなら「普通にロック」であって「パワーポップ」とは違うんですよね
逆にギターって歪みのバッキングとクランチのアルペジオがメインであって奇をてらったりも特にしません
むしろ大事なのは「鍵盤」で、ピアノやウーリーからオルガンやメロトロンまで、華やかさをもたらしているのはあくまで鍵盤であって、もう1つ重要なのが「変なアナログシンセ」だったりもします
ベンフォールズにギターなんかいないしね
これでしょパワーポップって
さてこの時代の音楽に僕がやたらうるさくて、やたらと愛着を持つのは何故かというと、当時僕はFM802というラジオ局で働いていました。FM局ですからCDライブラリーと呼ばれる倉庫というか部屋というか、とにかく音源が山盛り置かれている所があるわけですよね
元々僕も結構聞いてる方だったんですが、そんなやつにそんな所を与えるとどうなるかと言いますと
左端の一番上のAから順に毎日10枚ずつ借りて全部聞いてみたんですよ
もちろん全てをじっくり聞くというわけではなく、違うと思ったら「はい次」です
そうしないと終わらないんでねw
CDは僕もそれなりに持っていましたが、個人が追いかけて出会える作品数てやっぱり限界があるというか
所詮は自分に見えている物にしか人は生涯出会えないじゃないですか実際問題
でもアルファベット順に聞いていくとジャンル関係無くとにかく全部聞くので、それまで正直ロックやジャズくらいしか聞いてなかったんですが、ラテンもハウスもHipHopもこの頃にした貯金がものすごく大きいです
ついでに言うと僕はその後FM大阪に呼ばれてそちらに移るんですが、FM局って自分と同じ様なオタクというか、何かに超絶詳しいやつがやっぱり普通にゴロゴロといるんですよね
面白いのはそこに「ミュージシャンはいない」という部分でして、普段自分の音楽仲間と話す内容やノリとは違い、全ての情報をデータとして覚えているので、何を聞いてもすぐ答えてくれるんですよねw
802では過去の音楽財産をほぼ聞きましたが、FM大阪に移ってからは日々届くリアルタイムの音源を聞き漁りました。FM局ですから当然毎日色んなメーカーから新譜が届きますよね(サンプル版てやつね)
僕はここで「音楽って世の中にこんなに出てるんだ」と初めて知りました(良くも悪くもね)
今まで自分から見えてる範囲、自分に届いている範囲なんてホントに知れてたんだなって思い知りましたわ
この時代に出会った新たなジャンルやアーティストは数知れず、趣味として聞く音楽ではなく、洋邦問わず強制的に今出ている全てのジャンルの音楽を聴かされる環境ってやっぱり特殊であり大きな財産でした
さてそんな中、その時代の波と言うんでしょうかね
パワーポップなる物が台頭してきたので当然聞き漁るわけですが、本来メロディーというか歌が好きだったのもあり、今ではそれこそが自分の中心核になっていたりすらします
ミトン先生のTBSラジオ「金曜ボイスログ」でも基本的な所を取り上げてはいたのですが、ラジオだと時間的制限もさることながら、伝わりやすくする為にはマニアックな物もそう選べませんから、ウィーザーやOK GOなど、比較的入門編系の曲しかどうしてもかけられないのが少し心残りでした
なのでかつて「輝け!パワーポップジュニア選手権」での優勝を欲しいがままにしたワタクシが、絶対に外せない名曲を紹介するという「一人パワーポップ特集」で補足したいと思います
まず「パワーポップ」と言われた時、僕の中で一番印象に残っているのがこれです
The Semantics / Jenny Won't Play Fair (1996)
ちなみにパワーポップはジャケットもカラフルじゃないといけませんw
バッキングキーボードは言わずもがな。コーラスの分量もバッチリなんですが誰も知りません
アルバムもこの1枚だけなので情報もほとんどありませんw
さてこのセマンティクスがなぜ時代を表すパワーポップの代名詞なのかと言うと、実はこのアルバムね
日本でのみリリースなのです。先行リリースとかじゃなく”日本のみ”リリース(米版はお蔵入り)
当時パワーポップがいかに日本で押されていたかを表す1枚なんですよね
というのも。
メンバーはパワーズとオウズリーの2人にドラムがザックスターキーですよw(リンゴスターの息子ね)
でこのパワーズとオウズリーを会わせたのがベンフォールズというコッテコテの日本贔屓なメンバーなんです
ベンフォールズファイブをやる前にベンが組んでたマジューシャってバンドのメンバーなんですな
のでちょっと嫌な言い方をすると、音楽バブルであった90年代の日本市場を狙い、日本人が好きそ〜な感じで
ビートルズラインを忠実に守りながら卒なく作られた「パワーポップの象徴」なんですよね
ま、全然売れなかったんですけどねw
The Semantics / Coming Up Roses (1996)
この切なさと暖かさのバランスw
これ嫌いな日本人いないんじゃないのってくらいキュンとしますw
もはや邦楽というか最後のラーララララーとか絶対歌いたくなりますw
僕の制作物を知ってる人にはすぐバレると思うんですけど、僕もすぐアウトロにラララとか入れちゃいます
やっぱりこの高揚感というか、メロディアスな合唱って永遠にグッときますよねw
メンバーのオウズリーはこの後ソロとして活動してからの方が知ってる人も多いかもしれません
Owsley / The Sky Is Falling (1999)
Grass Show / Freak Show (1997)
スウェーデンからはグラスショウも参戦。コステロでは無いので注意w
でもこのように”どのルートできたか”も聞けばすぐわかる所が結構大事だったりします
もはやジャパンナイズし過ぎて民生先生とかぶる所すらありますよね
でパワーポップの定義の1つに「絵的」だというのも絶対あると僕は思ってるんですよ
簡単に言うと「好きな映画のエンドロールに流れてそう」というんですかね
映画の1シーンが思い浮かぶような物語的メロディとドラマチックな展開感がとても重要です
Fools Garden / Emily (1997)
ドラマチック過ぎるw ドイツからはフールズガーデンも参戦
インターの「round and round and round...」からの開放感異常w
もう自然に両手を広げてしまいますよね
後期パワーポップからもいうと
Fountains of Wayne / Mexican Wine (2003)
なんかこの曲聞いただけで良い映画を1本見た後のような気分になるんですよね
一見同じフリしてAメロの4小節目だけちゃんと半音上げてくるこのお約束感
この問答無用で切なキュンとする要素ってやっぱ未だにたまりません
まあなんだかんだ語ってはいますけど結局パワーポップなんてのはジェリーフィッシュで完結してると冒頭で言ってしまったので詳しく語るのも野暮なんですが、敢えていうなら本家ジェリーフィッシュの後にロジャーマニングが新しく作ったImperial Dragくらいまでは入れておかないといけません
Imperial Drag / Zodiac Sign (1996)
まあようするにこれですね。今聞いてもやっぱ全部入ってますし。もうこれでいいんじゃないかなw
今後「パワーポップって何?」って聞かれたら「ああ、インペリアルドラッグね」って言っておけば
「お、じゃあ一応全部通ってるんだね!」と勝手に勘違いしてくれるんでおすすめですw
Imperial Drag / Boy Or A Girl (1996)
うん。もういいですこれで。
でも正直この頃になると逆に完成しすぎて「お洒落感」みたいなのも入ってくるんですよね
メロディアスなヘンテコミュージックという要素に”ちょっとしたお洒落感”みたいなのも後期パワーポップの大事な要素なんかもしれませんね
というのもこの頃は既にカーディガンズとかヴァネッサパラディなど「お洒落な脱力系」みたいなのがグイグイきていたので、やたら切な過ぎたりヘンテコ過ぎたりするパワーポップより、90年後半はメロディアスかつお洒落な方向にシフトしていった気がします
Vanessa Paradis / Sunday Mondays (1992)
Alisha's Attic / I Am, I Feel (1996)
このようにメロディアスポップが全盛だった90年代でしたが、でも結局はそう残りませんでした
90年代って世界中で音楽が枝分かれして花咲きはじめた分、パワーポップ全盛期と言っても他だって全盛期なわけでして、90年代はニルヴァーナやスマパンなどのグランジ勢も登場したし
レッチリやアーバンダンスなどのミクスチャー勢も登場したし
そもそもオアシスやベックといったド真ん中勢がガッチリいるにもかかわらず
そこにソウルを引き継いだレニクラやジャミロクワイもいるわけですよね
フロア勢からはDaft Punkやケミカルブラザーズまで登場しちゃう始末
ヒップホップも2PacやRootsからビースティまで層も厚くなってもの凄く勢いがありましたし、サーフミュージックのリバイバルもこの頃起こってたのでG.Loveからジャックジョンソンへ繋がると
各アーティストが各ジャンルを作るような音楽的戦国時代の中「キュンとするポップ」は5番手6番手に押し下げられてしまい、時代の波に飲み込まれつつそのまま終息していったのが「パワーポップ」かと思っています
まあ他が強すぎたというかね。インパクト強い方がやっぱ残りますよね
00年代以降もパワーポップ的サウンド自体は一応引き継がれているんですけどね
でもその頃は当初パワーポップと呼ばれていた物とは少しずつ違って聞こえたんですよね
OK GOやMIKAなどパワフルポップも良かったんですがMV屋さんみたいになっていっちゃったりね
パイも少ないので今ではもはやサブカル系だけが好むマニアックなジャンルなのかもしれません
MIKA / Grace Kelly (2007)
でも...やっぱり未だに好きなんですよねパワーポップw
無人島に持っていく1枚は3日悩むかもしれんけど結局僕はジェリーフィッシュな気がする
キュンとするメロディってやっぱ永遠なんですよね
ていうか無人島にはなぜ1枚しか持っていってはダメなんですかねw
誰が最初に決めたんだろうこのルール
関係無いですが大滝詠一先生は音源を持っていかないんですってね
66年までのヒットチャートが載った「レコード・リサーチ誌」を持っていくそうです
なぜかというとタイトルを見たら頭の中で全部再生できるからなんですってw
というのを大滝詠一研究家のROLLYさんが教えてくれましたw
パワーポップの定義はもとより、世代によってキュンとする時代はみんなバラバラなんだと思うので
みなさんにとってのキュンな時代を今夜は久しぶりに聞いてみるのはいかがでしょうか♪
あけましておめでとうございました (1993)
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