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キュビズム展

  • 執筆者の写真: gen kushizaki
    gen kushizaki
  • 2023年12月28日
  • 読了時間: 9分

更新日:5月28日

いよいよ来月でキュビズム展も終わるので、今年の締めはこれにしました

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久々の西洋美術館

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前回のマティス同様ポンピドゥーセンターの大改修に伴って作品をゴッソリ貸してくれたので実現した特別展ですが、こんなに大型のキュビズム展は50年振りらしく、ぶっちゃけ次はいつになるかわからないので、もしこれ系が気になってた人はチラッと見ておいた方がいいかもしれませんね

感覚で見れるキュビズムって単純に楽しいので実はアート入門にもってこいだと僕は思うんですよね

なので年明けの暇つぶしにでも良ければぜひ♪


相変わらずモネは結構並んでましたわ

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日本人てほんとモネ好きですよねw

これなんなんすかねw

まあキュビズムよりはよっぽど綺麗でわかりやすいから人気があるのもわからなくはない

ワタクシのドストライクでもあるキュビズムなので贔屓目も多少はあるのかもしれませんが

それらを差し引いても断然こっちの方が面白いですし、今回はキュビズムの入り口から出口まで全部あるので

知識ゼロから見に行っても帰る頃にはもうあなたは立派なキュビストに!w

写真もバンバン撮れるのでその瞬間のドキドキも一緒に保存できて楽しいですよ


てかそもそもキュビズムってなんやねんと。

簡単に言うとセザンヌに影響されてピカソとブラックが半分ギャグで始めた実験的技法だったんですけど

従来の「見た物をそのまま美しく描く」というアカデミックな美を根本からひっくり返してしまったので

その衝撃と時代の流れも重なって、サブタイ通りその後の「美」に対する価値を一変してしまったんですね

いうなれば美術の明治維新みたいなもんですか(んなこたあないかw)

でも利休が侘び寂びで美の価値観を変えたじゃないですか

素朴でもヘンテコでも「こっちのが良くね?」ってなりましたよね

あれくらいの変革があったのは間違いないです


入り口はブラックのこれ

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単純ですよね。今までの美しい風景画とは全く違うので「はあ?」って思いますよね

これどういうことかと言いますと、キューブ=立方体というように対象を丸三角四角まで単純化し

見た物をそのまま描くのではなく、対象を分解して再構成してもっと「本質」を描こうとしてるんです

はい、さっぱり意味わかりませんよね


例えばサイコロを”見て”書いたらこうなるでしょ

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ちゃんと奥行きもあって陰影もあって、ダヴィンチ以降の価値観ではこれが素晴らしい絵になります

でもこれってサイコロという物を一方向から見た物であって、サイコロの全てを説明できてませんよね

のでサイコロという物を分解して再構成し、サイコロの本質に迫ろうと思ったら下記でもいいわけですよね


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従来のアカデミックな美が上のサイコロで、キュビズムの新しい美が下のサイコロでなんですけど

美しいリアルよりも「むしろこっちの方がよりリアルじゃね?」ってピカソとブラックは思ったわけですな

もちろん多視点を最初にしたのはセザンヌですが、セザンヌのように感覚でそうなるのではなく

もっと体系的に、理論的にそうしたらどこまで分解できるんだろうという実験を二人でしてたわけですよ


というのも時代的背景がやっぱり大きく、絵でできることや絵が担うことをみんな模索していたのです

だって写真のようにそっくりに描くならもう写真で良くね?ってなってた時代なので、絵独自の表現、もっと言えば作家独自の表現をみんな悩んでたんですな


一見当たり前かのように聞こえるんですが「もう似てるとかリアルよかどうでも良くね?」ってのは革命だったのです。なぜなら作品が「作家側の物になる」というのは主体が逆になるからです。

相手にそう見える必要もない。モチーフが伝わる必要もない。そもそも相手がどうのこうはもういい。

自分はどう見えたのか、自分は2Dにどう落とし込みたいのか、という風に主人公をこっちにしたんですな


ブラック「楽器」

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B「ピカさんこれどう思います?」

P「うっはwセザンヌじゃんwサイコー!」


ピカソ「ギター奏者」

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P「人も入れてみたw」

B「やりすぎっすwわけわかんねっすw」


ブラック「果物皿とトランプ」

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B「こういうのだとどうですか?」

P「やっぱコラージュだよね〜」


ピカソ「ヴァイオリン」

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こんな感じでキュビズムって三段階ありまして、キューブ化した「セザンヌ的キュビズム」、幾何学的な所まで解体再構成した「分析的キュビズム」、で最後にコラージュ化してきた「総合的キュビズム」なんですが

この頃には追求対象が質感や立体感も込みで実験するようになるんですが、この奇妙な生々しさヤバいです


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どうですかね。この段階で「かっこいい!」と思うか「んーあんましー」と思うかで決まるというか

あまり好きな感じじゃない場合は、これ以降の派生をいくら見ても正直全部面白くないと思いますw

どうしても「好き嫌い」の判断基準を「わかるわからない」でする人が多いので敬遠されがちですけど

キュビズムってもっと感覚やセンスに特化したある種の遊びみたいなもんなので、意味とか技法はさておき

単純に「かっこいい〜」とか「あ、これ好き〜」ってだけで全然いいんですけどね


先週の「日曜美術館」がちょうどキュビズム特集だったんですが講師になんと荒木飛呂彦師匠が来てまして

もう一人のおっちゃんはあーだこーだと難しい話しをしていましたが我らが荒木先生はやっぱ違うね

開口一番「家に飾って一番かっこいいのがキュビズム」とw

そうなんです!さすが荒木師匠!そこにシビれる!あこがれるぅ〜!


でも二人の楽しい実験も1914年に突然終わります

第一次世界大戦が始まっちゃったからです

ブラックなどフランス人は兵役に行っちゃうし、パトロンのカーンワイラーはドイツに帰っちゃうしね

なのでキュビズムって本来は1907年から1914年という7年間だけの話しなんですよ

でもそれを見ていた同世代の画家達誰もがキュビズムという病にかかる一大ムーブメントだったので

最初は散々な批判だったにも関わらず、美術の形を覆し、以降の美術を変えてったってのが全体の流れです


前回のマティスが従来の美術から「色」を解放し、続けてキュビズムが美術から「形」を解放したんですけど、その流れを実際続けて見れたのも本当にその時代を体感できたようで今年は何かと面白かったです


さてキュビズムを語る上で外せない、同時期にいた画家達もみんな死ぬほどかっこよくてですね

ピカソブラックの次に必ず出てくるレジェとグリスの2人は別で章立てされていました


フェルナン・レジェ「婚礼」

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いわゆる分析的キュビズムってやつで、婚礼の活気や雰囲気を幾何学的に再構築しつつ

現代で言う360°カメラで撮ったかのようなこの全体感がかっこいいですよね


ファン・グリス「楽譜」

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グリスはもっとセザンヌ的というかマティス的というかブラック的というかミクスチャー系

そして今回の扉絵にもなっているドローネー夫妻も外せない重要人物


ロベール・ドローネー「パリ市」

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やっぱデカいのはかっこいい(手前はアルベール・グレーズ)

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ドローネーはキュビズムをもっとカラフルにして抽象に寄せた感じでして

同時期にいたカンディンスキーの抽象までいかないちょうど中間て感じなんかな

この辺りからは絵というよりも「デザイン」に近い感じすらします


「窓」とか

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「太陽」とか

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何人いるでしょーか

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ピュトー派でいうとデュシャンブラザーズもいるし

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ヴィヨンも

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クプカもただただかっこいい

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その他サロン系でいうとシャガールはもとより

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この頃から既にシュール入ってきてる

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モディリアーニもいるし

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フレネーもいる

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東欧組からはロレーヌ・エッティンゲン

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こんなん山下達郎のレコードジャケットになってても全然変じゃないくらい今風ですよね


シュルヴァージュはクレヨンしんちゃんの映画版

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セルジュ・フェラのコラージュも最高にかっこいい

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一方ロシアではキュビズムとイタリア未来派を合体させた立体未来主義なんてのも勃発


ラリオーノフとか

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ゴンチャローワとか

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ジャン・プーニーなど様々

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でもここまできたらデザインも通り越してもはや「ポスター」に近いですよね

以前書いたポスター展で見たロシアアバンギャルドをすごく思い出しました

佐賀一郎先生の解説が秀逸なのでもしポスターに興味のある人はぜひ


最後の章は戦中から戦後にかけてキュビズムがどうなっていったのかで締めていました

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アルベール・グレーズ「戦争の歌」1915年

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モデルは「戦争の歌」を作曲中のフローラン・シュミット


ピカソ「若い女性の肖像」1914年

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肘掛け椅子に座るモデルは当時の恋人エヴァ

この質感やコラージュ感ヤバくないですか?それもそのはず

同サイズの紙で再構成したモチーフを先に作って、逆にそれをそのまま油絵で描くっていうねw

音楽にも自分で弾いた演奏を録音し、それをサンプリングしてレコード素材っぽく加工する手法がありますが

ピカソは1915年にもうそれをアナログでやってたってことですねw


ファン・グリス「朝の朝食」1915年

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グリスは相変わらずセザンヌとマティスとピカソを混ぜた感じですがもはや完成の域にありますよね

てか疎開してきたマティスにキュビズムを勧めてマティスまでキュビストにしたのがこいつでして

視点はセザンヌ、窓や色はマティス、ネガポジの反転はピカソと好きな物だけ混ぜた感じいいよね


そして僕の大好きなマリア・ブランシャール「輪を持つ子供」1917年

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戦時中なので子供が持つタイヤはガレキから拾ってきたタイヤなのかもしれませんが

色の配置もネガとポジの反転バランスもリズミカルなので楽しそうな雰囲気を感じます

真ん中に書かれた「SOIS SAGE(大人しくしてなさい)」というセリフも味があってすごくいい


戦後はブラックも方向がすごく変わっていき

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グリスも随分雰囲気が変わりました

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ピカソはむしろ進化した感じw

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レジェなんてもはやカンディンスキーで最高

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そして1920年以降はコルビジェらに引き継いでいくという感じでした

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でも今回キュビズムの流れを見て改めて思ったのは「ピカソってやっぱ別格なんだな」ってことでした

ピカソに対して誰かが少しアクションして、またピカソがちょっと変えたらそれに誰かが続いてって感じで、変化のグラデーションは多々あれど、起点て結局全部ピカソやないかwって流れで見ててすごく思いました

こういうのって流れで見ないと1作品ずつ見てても絶対にわからなかった気がします

好みもあるかとは思いますが、現に要所要所でドキッとして立ち止まるのって全部ピカソでしたわ

まあそういう配置がなされてるのかもしれませんが、ピカソを見た後に誰かのを見ると全部「ピカソみ」がすごいんですよねwやっぱマティスとピカソは別格なんだなと思い知らされましたわ


いやあ、マジ楽しかった

来月もっかい行こうかなw

むちゃくちゃ面白いので暇つぶしにでもぜひ行ってみてくださいまし♪

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